Complete text -- "くらちゃん、安らかに……"

21 November

くらちゃん、安らかに……

この日の昼過ぎから、くらちゃんは嘔吐を繰り返すようになってきた。
くちばしの端や、鼻孔から流動食が噴出するようになり、
そのたんびにテッシュをこよりにして吸いとった。
最初の内はくらちゃんは抵抗していたけれど、
だんだんと手の中でぐったり眠るようになってきた。

もう、くらちゃんは今日あたりダメかもしれない。

長年小鳥を飼ってきた経験からそう思った。
それでも、くらちゃんは食欲旺盛だった。
最後まで食べたがっていた。

お迎えしてから、ほとんどくらちゃんに触れないまま、
絶対安静の3週間だった。
なんとかして「くらちゃん大好き」という気持ちを伝えたい、
独りで逝かせたくない、という人間のわがままな思いから
私はくらちゃんを手の中でだっこした。
くらちゃんは、いままで看取ったどの小鳥よりも軽かった。
そのはかなさが愛おしかった。
「今度は病気にならないで大人になれるといいね」
「いままでよくがんばったね」
と何度も声をかけた。
そして

……どうか最期ぐらいは苦しませないでください……

と祈った。何度も祈った。
生まれて数週間で病気になり、ずっとつらい思いをしてきたのだから、
最期ぐらい安らかに、どうか眠るように、と
もう、そう祈るしかなかった。

9:00、くらちゃん就寝時間。
くらちゃんはときどき頭を動かしていた。
もう鼻からもくちばしからも流動食は出ていない、
少しは呼吸が楽になったかな、と思う。
それからもひんぱんにのぞいていた。

夜11時頃くらちゃんにおやすみを言おうと
カバーを開けてのぞきこんだ。
くらちゃんは30分前と同じ格好だった。

あっ……

くらちゃんは眠るように息絶えていた。

いままで張り詰めていたものが一気にはじけて、
私は声も上げずに泣いた。

不思議と悲しくはなかった。
くらちゃん、病気からやっと解放されたね。
くらちゃん、もう苦しい思いしなくてすむね。
生まれかわったらいっぱいごはん食べようね。
今度こそ空を飛べるといいね……

くらちゃんは、横たわるその様子から
苦しんだ形跡は全くなかった。
神様が最後にくれたボーナスかもしれない。

正直、くらちゃんの看護後半は
「私は小鳥の看護がしたいんじゃない……元気な小鳥が飼いたい……」
と人間の欲望むき出しになってみたり、
ノイローゼになりかけたりした。
でも、くらちゃんの目をみると目が覚めた。
「私がやらずに誰がやるんだ」と。

くらちゃんは私にいろいろなことを教えてくれた。
また、出会いがあったらお迎えしてしまうと思うけど、
くらちゃんのことは忘れないよ。
ほっぺの白いさし毛や華奢な足も。
これからどの文鳥さんに出会っても
きっとくらちゃんと比べてしまうだろう。

くらちゃん、安らかに。いろいろ教えてくれてありがとう。

2007年10月21日 午後11時
月のきれいな雪の日に くらちゃん永眠

00:00:00 | shomon | |
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